【インタビュー】映画監督・大友啓史 『世界で戦う これからの作り手に伝えたいこと』

トヨタ自動車が展開している高級車ブランドLEXUSが実施している若手クリエイター支援プロジェクト『LEXUS SHORT FILMS』では、その取り組みの一環として、アジア最大級の国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)と共に、「世界と戦う」をテーマに映画監督・大友啓史氏を講師に招いたワークショップを開催している。

これまでもその模様をお伝えしてきたが、今回eizineでは、第2回目のワークショップの際に大友啓史監督にインタビューを行なう機会をいただき、ワークショップで感じたこと、L.A.に留学しハリウッドの映画作りを学んだ大友監督が「映画を教える」ということ、これからの若手クリエイターに期待することなどについて話を伺ったので、その模様をお伝えしたい。
                                                    

映像作品を作るということは、自分の視点や立ち位置を決めるということ

ーー今回『LEXUS SHORT FILMS』の講師としてどのような気持ちで臨まれたのでしょうか

大友監督: 単純におもしろいですからね、作ろうとしている人達とこういう時間を共有することは。自分とは個性の違うクリエイターたちや面白い才能と出会って、なんとなく自分も刺激されるかもしれないというモチベーションもありますしね。むろん創作上の迷いを抱えている人には、僕の経験値から少しでも有効なアドバイスができれば、それはそれで光栄ですし。
普段あまり会わない人たちと、こんな形でみっちりやる機会はないですから、お互いにそこで言葉を交わすことで生まれることもあるだろうし。だから、講師と言っても自分の方から何か一方的に伝えるというものにしようなんて気持ちも最初からなかったんですよ。
                                                    
ーーちなみにワークショップの中で、これは、という才能には出会えましたか?

大友監督: 個別にどの人が、というのを言っちゃえば『あるよ』ということになるんですが、それとは別に面白い視点を持ってるなと思う人は何人もいましたね。

ーー大友監督の著書「クリエイティブ喧嘩術」(NHK出版新書、2013年)の中で、周囲を変えることで自分の視点を変えようとした龍馬とL.A.へ留学した自身の感覚が重なって思えたと述べられているのですが

大友監督: え、そんなこと書いていましたか? カッコつけすぎじゃないかな、それ(笑)

ーーいえいえ。今回の参加者も、大友監督とのワークショップに参加することで大友監督を巻き込んだり、周囲を変えて自分の視点を変えようという意識があるように感じました。ワークショップを通して、今回の参加者の皆さんは大友監督の目にどのように映りましたか?

大友監督: 現代は本当にさまざまな情報に溢れていて、絶対的に信用できる価値観とか世界っていうものの見極めがなかなか難しくなってきていますよね。一方で撮影するという行為は、フレームで自分だけの世界を切り取っていくということでもあって。フレームを覗いた瞬間だけは、ある意味その画角の中で世界は自分だけのものなる。身近な題材も含めて、そうやって自分が生きている世界の手ごたえというか、そういうものを一生懸命確認しようとしている作品、構築しようともがいている人が多いと感じました。
改めて、映像作品を作るということは、生きていくための自分の視点や立ち位置を決めるということだと痛感しましたね。

大友監督: ワークショップに参加している人達は、それぞれ自分がどの立ち位置でモノを作っていくかということを考え、悩んでいる。でも、映像作品を作るっていうことでいうと、大変だけど、そこが一番楽しい段階でもあるんですよね。悩んでいたり、これでいいんだろうかと思ったり、この題材じゃないんじゃないかとか。作品自体が多様だからね。色んな人が色んな考えをもって、どの対象を撮るか、どんな題材を撮るか、どういう風にそこに向き合うかということで自分のスタンスを決めようとしているから。
映像作品を作るというのは、結果として自分自身について知るということでもあって。自分が一体何やりたいのか、自分が世界をどういう風に見ているのか、自分が世界をどう切り取りたいのか、っていうことを突き付けてられるんですよね。

今回参加した皆さんも、それなりにしっかり自分と向き合おうとしている人達だから、その向き合うための武器とか、自分の映像作品を通して世界とつながっていくということを真面目に考えていますよね。そういう人達と出会って話をするということは、それなりに清々しい気持ちになるし、興味深いことだと感じています。
                                                    
ーー大友監督自身はワークショップを通して、視点が変えられたな、刺激されたという部分はありますか?

大友監督: もう50にもなるとね、そう簡単には変わらないですよ(笑)。まだまだ変わりたいとは思っているんですけどね。でも面白いアイディアの芽や新鮮な視点っていうのは、いっぱいありましたから。むしろそういう題材や才能をしっかりプロデュースしてあげたいと思いましたね。だから、変わるとか変わらないとかというよりも、それなりに刺激はされたんだろうと思います。皆さん、誠実に一生懸命取り組んでいましたから、僕も初心に帰って頑張ろうと。今回のような少人数での密なワークショップは、そういう関係性とか愛情が生まれてくる面白さがありますね。

選ぶということ、それが演出

ーー著書の中では、現場で背中を見て覚えろというタイプとご自身のことを述べていましたが、ワークショップでは逆にとても丁寧に教えようとしているようにも見えました。

大友監督: 僕もどちらかというとね(現場で背中を見て覚えろというタイプ)、確かにそっちかもしれない。
一方で、あの本の中では、「言葉で継承していく」ということの大切さにもしっかり触れたつもりです。経験の多い者が、後を継ぐ者に対してしっかり言語化して、継承していく。その強みや厚みも、LA留学時代に様々な局面で感じたことですから。
ただ、結局誰かに教えられて納得したことよりも、自分で納得したり見つけたりしたものの方が強いっていうのはどうしても根底にありますから。血肉になるというか。誰かに言われて『はい、そうですか』って言ってやることよりも、自分でやり続ける中で『やっぱこっちだったな…』と気づくことの方が身に染みて力になることが多い。それを10年、20年、30年長く生きている人間が先回りしていて、20年、30年前の自分を思い出してアドバイスとして言ったところで、やっぱりそのアドバイスを受けている相手とは生きてきた社会とかバックボーンにある人生とか価値観とか、育ってきた環境が違うわけだから、それが必ずしも応用できるかどうかでいうと分からないんですよ。受ける側に上手に選択してもらうしかない。

大友監督: 今日もすごく気をつけなきゃいけないのは、真っすぐ伸びようとしている枝を、僕の言葉で間違って変な方向に曲げてしまったり、折ってしまう可能性もあるっていうことなんです。これは怖いことです。だから僕も全力で彼ら彼女らとその作品に向き合い、責任をもって嘘のない言葉を届けなきゃいけない。真剣勝負ですね、これは。今日も最後に言ったけど、『僕の言ってることは、あくまでも僕が思ったことだからね』と。無責任な言葉と捉えられると不本意だけど、お互いキャリアは違えど作り手同士ですから、作品に関して言うと、教えるとか教えないとかっていうスタンスはありえないと思っていて。色々とワーッと喋るんだけど、どれがその人にピンポイントに届いてるかは、そちらでしっかり主体的に選んでねっていうことです。僕の言葉に納得してくれるんだったら、それを取り入れればいいし。こういうワークショップには、その信頼関係が前提として必要でしょうね。

考えてみれば、選ぶということ、それが演出そのものですしね。
例えば、現場で今、役者に対して「こうしてください」って自分が言っていることが果たしてベストな選択肢なのかどうかわからない場合。色んな考え、これもある、こういう考えもある、さあどうする?でも、時間は限られてるし、『よーい、スタート!』って声をかけなきゃいけない。そんな状況の中、時として、俳優であったり、それぞれの専門スタッフだったりに選択肢を預けてみるのも、もしかしたら一つの方法かもしれない。
他者の素晴らしいアイディアを、自らの選択肢として選び取っていくのも、演出の大事な要素の一つではありますからね。カメラのアングル一つとっても、『僕は色んな事言うけど、あなたはカメラマンのプロなんだから、まずあなたが一番いいと思う画を見せてくれますか、あなたが一番いいと思うカメラワークを見せてください』というようなやり方もある。映画や映像を作るっていうのは、集団で作っていくものですからね。
1人の強烈なクリエイティビティが何か引っ張っていくってことももちろんあったりするし、そうあるべき部分もあるんだけど、一方で、他者の才能を活かしながら他者の意見や考えを認めながら作っていくってことだから。今回のこの場の作り方にしても、やっぱり同じディレクター職の人間に対しても僕はそういうスタンスですね。
『君も同じ監督であって、まだキャリアがなくても監督を志向しているのであれば、ある程度の経験知として僕はこう思うよ、でも、君はどう思うの?』ということを、個々をリスペクトしながら丁寧に進めていくしかない。参加者に対して、絶対こうしろとは言えない。それは自分で考えてくださいね、あなたの作品なんだからと。

結論として言うとね、映像にだけ夢中になってさ、食えなくなっても困るじゃないですか。それなりに楽しいし、でもこういう世界だし(笑)。だから、なんとか継続してやって、なんとか生き残って、撮り続けて行こうよと。したたかにね。それが、僕が一番言いたいことかもしれない。

ーー世界に羽ばたく前にまず生き残って欲しい、と

大友監督: そうです!そうそう。
で、生き残ったやつが世界に羽ばたくんですよ。やり続けることは大事。ずっと言ってるように『世界』っていうと、みんなすぐにハリウッドとかって思っちゃうんだけど、そうじゃないじゃないですか。我々の身の回りには、いろんな世界が転がっていて。

                                                                       

作ってみないとわからないことがいっぱいある

ーー少し本筋と逸れるようですが、L.A.へ留学し南カリフォルニア大学のフィルムスクールなどでハリウッドの映画作りを学ばれた大友監督からして「映画を教える」ということは可能だと思いますか?

大友監督: わからないですね。僕さっき言ったようなスタンスでね、よく言うんですけど、要するに『映画いっぱい観ろよ』ってことしか言えないんじゃないかな、基本的に。そして『映画観て、撮れよ勝手に』っていう。その時の機材とか多少撮ることをフォローしてあげるところがあったほうがいいでしょ、という感覚がもしかしたら映画学校なのかもしれないですけど。もちろん体系的な知識っていうのも、絶対必要なんですけどね。
撮ってみて分かることがいっぱいあったりするから。結局、オン・ザ・ジョブ・トレーニングでしかありえないんですよ。映像を作るって1つの技量だけじゃないから。

例えば、前回のワークショップでも紹介したんですけど、この前仕事で行ったポーランドには、ポーランドの映画監督アンジェイ・ワイダ(「世代」「地下水道」「灰とダイヤモンド」が抵抗3部作として知られる)が設立したワイダ・スクールというのがあるんです。そのワイダ・スクールとかを見ていても、ハリウッドとはまた作り方の考え方が違うんですよ。まず脚本を作って、途中1回作ってきた脚本の中から、まず1シーン抜き出して撮ってみる。撮ってみると、脚本通りにはいかないということが分かる。それでまた脚本作りに戻ってきて直す、と。そういう感覚を結構大事にしているんですね。

大友監督: 結局、作ってみないとわからないことがいっぱいある。その作るってことは、生身の人間を置いてセットを作ったりとか許可を取ったり…っていう死ぬほど段取りがあるわけですよ。手続きが。でもその手続きを嫌がってたら進まないわけじゃないですか。
そういうことで言うと、あなたのやりたいことに対してどういう手続きが必要か、だったらその手続きも自分たちでやっていきましょうねっていうのは、社会を知り世の中のシステムを知ること、どこにどういう手続きを出せばどういう許可が出るかってことも知っていくということだから、そういうのはさっさと覚えたほうが良いじゃんっていう。机にしがみついてキャンパスの中だけにいて、映画を勉強していたって分からないことはいっぱいあって、立派な映画理論を覚えても、撮る人じゃなくて観る人になっていっちゃう。撮る人と観る人は明らかに違う気がするんですよね。
ということでいうと……分からないですよね。教えることができるのか、っていうのは。

                                                                         

若い人には若い人なりの映画の作り方っていうのがあるんじゃないか

ーーこれからの日本の若い作り手に伝えたいこと、期待していることを教えてください

大友監督: 今は当たり前にメディア環境も変わっていってるし、その速度も変わってきている。クラウドファンディングや作り方とか作る規模とかアウトプットするウインドウの数とか、時代のスピードとか発想とかも含めて、全く違った考え方ってのが1年2年ごとに生まれてきているから、どんどんシフトチェンジしている気がしています。

だから、もう若い人には若い人なりの映画の作り方っていうのがあるんじゃないかなと思っていて。そういう自分たちがやりたいことを自分たちがやりたい方法で作る方法を勝手に作っていけばいいじゃん、と思うんです。

大友監督: 僕もNHKから独立して映画業界7年目なんですよ。それで、7年するとだいたい日本の映画業界のシステムってなんとなく分かっちゃうくらい狭い、囲われた世界なんですよね。その世界の外から出てくる作り方とか、また、新しい回路を作るというか、やっぱりそういうことを発想する人達が出てきてもいいと思いますね。特に若い、リスクをとれる時期にやってほしい。
やっぱり一極集中型の今のビジネスモデルはもう新しいものは何も生みませんよ。

若い人たちが全く違うビジネススキーム作って、『作る』って、作品とかだけでなく、流通していくシステムとかも本当は若い人たちが勝手に新しいものを見出せばいいと思うんですよね。で、創作者にとっての、「新しい楽園」とかを作ればいいと思うんですよ。そういう中で逆に、『大友さんここで撮ってください』とか言ってくれないかな、みたいな(笑)
そんな風に、スキームとかシステムとかをビジネス化するっていうのは今の若い人たちのほうが僕たちよりも凄い上手な気がするんですよね。そういうところにも期待してますね。

                                                    

愛情をもってこういう機会を作り出しているというのが伝わってくる

ーー最後に、自動車ブランドのLEXUSさんによる若手映像作家の支援という今回の取り組みについては、どう思われますか?

大友監督: やっぱりね、LEXUSさんくらいのしっかりした企業さんがこういうことを行って映像業界の未来を担える人達を育成するというのは、それはもう本当に心強いですね。関係者の方々も皆さん一緒に同席して、ずっと付き合ってくださってますからね。遠くに見える皆さんの表情もね、時々知らんぷりしてこっそり見てたんですけど(笑)、なんか楽しそうなんだよなあ。LEXUSの関係者の方々が、参加した作り手それぞれとキチンと向き合っているというか、愛情をもってこういう機会を作り出しているというのが伝わってくるので、なんというか、凄く良いよね。
ぜひ、続けてくださいって言いたいところですね(笑)

大友啓史 監督プロフィール

大友啓史 おおとも・けいし
1966年岩手県盛岡市生まれ。 慶應義塾大学法学部法律学科卒業。90年NHK入局、秋田放送局を経て、97年から2年間L.A.に留学し、ハリウッドにて脚本や映像演出に関わることを学ぶ。帰国後、連続テレビ小説『ちゅらさん』シリーズ、『深く潜れ』『ハゲタカ』『白洲次郎』、大河ドラマ『龍馬伝』等の演出、映画『ハゲタカ』(09年)監督を務め、イタリア賞などを受賞。
2011年4月NHKを退局し、株式会社大友啓史事務所を設立。
同年、ワーナー・ブラザースと日本人初の複数本監督契約を締結する。12年8月『るろうに剣心』、13年3月『プラチナデータ』を公開。
14年夏、映画『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』2作連続公開、14年度の実写邦画No.1ヒットを記録し、日刊スポーツ映画大賞石原裕次郎賞、日本アカデミー賞話題賞など、国内外の賞を受賞している。16年8月『秘密 THE TOP SECRET』、同年11月『ミュージアム』を立て続けに公開。
2017年は『3月のライオン』前後編二部作を監督した。

                                                                                        

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LEXUS SHORT FILMS

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