【レビュー】Blackmagic Design ATEM Television Studio HD

かんたんに言うと
  • ブラックマジックデザイン社より発売されたATEM Television studio HDをネット生配信番組での使用を想定し編集部でレビューした
  • 従来機よりスペースの制約を受けづらいコンパクト・高機能に進化。スイッチャーコントロールが本体のみで出来るようになっている
  • 価格は11万円ほどと安く、ライバル機に比べ入力数も豊富でゲーム実況系の動画配信時などに特に役立ちそうだ

eizine編集部によるレビュー

今回は、ブラックマジックデザインより2月に発売されたATEM Television studio HD(以下、ATEM),HyperDeck Studio Mini,Web Presenterをお借りしたので編集部で試用したレポートをお届けしたい。
これらの新製品の詳細に関しては、既にいろんなサイトや専門誌で紹介されていると思う。既出の情報も含みながらの紹介になるが、今回はATEM Television studio HDに主眼をおいて、インターネットを使用したライブ動画配信の現場で使用する際に気づいたことをまとめてみた。

ちなみに今回、ネット生配信番組などを制作している株式会社エスピーボーン様にご協力いただき、配信番組のスタジオを模した環境をセッティングし、一緒にその使用感を探り、使いみちなどを考えてみた。

ATEM Television studio HD 対応フォーマット

対応フォーマットは、720p50、720p59.94、1080i50、1080i59.94、1080p23.98、1080p24、1080p25、1080p29.97、1080p50、1080p59.94となっている。

旧モデルの「ATEM Television studio」と比較すると、1080p/23.98、1080p/29.97、1080p/59.94が増え、フルHDのプログレッシブフォーマットのサポートが増えている。
普段、配信業務で使用することもあるという、RorandのV800やV-1HD,V-1SDI、PanasonicのHS50などと比較してもライブ配信用途でのフォーマットとしては遜色ないとみられる。

V800(720/59.94p、720/50p、1080/59.94i、1080/50i、1080/59.94p、1080/50p)

HS50(HD:1080/59.94i、1080/50i、1080/23.98PsF、1080/24PsF、720/59.94p、720/50p)

V-1HD(720/59.94p、720/50p、1080/59.94i、1080/50i、1080/59.94p)

V-1SDI(720/59.94p、720/50p、1080/59.94i、1080/50i、1080/59.94p、1080/50p)

ただ、注意したい点としては、本機は従来機と同様にスケーラー(画素変換回路)を内蔵していないため、ATEM側のフォーマット設定と入力ソースのフォーマットを統一する必要がある。もしくはBMD社が提供するコンバーターなどを使用することになるだろう。


前モデルから使いやすくコンパクトなサイズへ

(画像:上段から、Blackmagic Video Assist、HyperDeck Studio Mini、ATEM Television Studio HD)

サイズは2/3Uサイズとなり、旧モデルATEM TVS(1U)よりも1/3サイズコンパクトに。
この1Uラックに対して余った1/3Uサイズのスペースに収まるのが、同時に発表されたHyperDeck Studio MiniおよびWeb Presenter。Teranex Miniコンバーターなども収まりがいい。

(画像:旧モデルのATEM Television Studio)

同席していたテクニカルディレクターもこのコンパクトさについて、ATEMとスケーラー用途のTeranex Miniや同録として使用するHyperDeck Studio Miniを併用しても1Uラックの一列に収まるというのはやはり便利だと語る。
旧モデルと見比べた際にも、最初に出てきた感想は「小さいし(本体だけでスイッチャーとして)出来上がっている」というものだった。
外での中継など、イチから機材を持ち込みでセッティングを行なう配信現場での持ち運びに苦にならない重さ、そしてサイズが小さいので配信用ブースが狭いところほどスペースの確保が楽なため、このサイズ感はありがたいと感じるとのことだ。

入出力系統について

入力はHDMI4系統、3G-SDI4系統の計8系統に拡大。旧機種にはデジタルオーディオしかなかったがキャノン端子(XLR)でのアナログオーディオ入力が加わった。
出力はSDIプログラム出力が5系統に加えて、AUXアウト、マルチビュー用にHD-SDI 1系統、HDMI 1系統が追加されている。
今回AUXアウトが追加されているので、配信番組などで出演者やカメラマンへの返しモニターなどにも使えそうだ。

そして入力が増えHDMIで4系統入ることで、SDI出力が多い業務用カメラが無くとも家庭用のHDMI出力のみのカメラでもマルチカメラ体制を構築することができる。

例えば、ATEMと同様にコンパクトな取り回しが売りのRorand V-1SDIで番組配信を行なう場合は、カメラの入力とは別にパソコン画面やゲーム画面をHDMI経由で入力すると、V-1SDIにはHDMI入力が2系統しかないため、複数台のゲーム機、スマホをHDMIで入力しようと思うと、カメラはSDIのものを使わないといけないという制限があった。
リニューアルされたATEMにはHDMI入力が増えたことで、配信現場での機材選択の幅が増えるだろう。

ゲームの配信などでは、どうしてもゲーム画面の入力がHDMIでの接続になることが多いといい、HDMIの入力ソースだけでも4系統ある本機は、4人分のゲーム機(やスマートフォン)ソースにHDMIを割り振っても、SDI入力4系統も残っているので、マルチカメラでの配信も出来き、HDMIケーブルの抜きさし必要なくゲーム画面のスイッチングができるという利点がある。
HDMIケーブルの抜きさしに関しては、入力数がそれなりに多ければ問題ないのだが、コンパクトなスイッチャーによくある少ない入力数だと行わざるをえない場面もあるという。
このサイズ感のスイッチャーにない、入力数の豊富さはやはり強みだろう。

だが、動画配信用途に本機を活用する場合、HDMIの出力が備わっていないため、配信用のパソコンへの出力にHDMIが使えずSDIで出力しなければならない。

そうした場合は、ウルトラスタジオやmini converter、Teranex Miniコンバーターなどで変換することで解決できる。
ただ、多くを求めすぎかもしれないが、従来品にあったHDMIの出力が欲しかった。


フロントパネル/コントロールが本機のみで可能に

新たにフロント部にLCDモニター、発光ボタン、スピンノブコントロールが一体となり、本体のみでコントロールが可能になった。
また、タリー赤はプログラム出力、緑はプレビュー出力と、ひと目で分かる仕様になっている。
これはATEMのハードウェアコントロールパネルである「ATEM 1 M/E Broadcast Panel」と同様のものだと推測される。このボタンの押し感がしっかりとしており、少しボタンに触れただけで切り替わるようなスイッチングミスを防いでくれる。

発光ボタン上部にあるボタンで音声ON/OFFの切り替えが可能で、AFV (audio-follow-video)が可能になっている。
LEDは4段階の簡易的な音声レベルメーターで、こちらはLCDパネルでも現在調整しているオーディオレベルがひと目で分かるようになっており、音量の調節をスピンノブで行なうことが出来る。

旧モデルには搭載されていなかったDVE(デジタルビデオエフェクト)の追加

旧モデルには搭載されていなかったDVE(デジタルビデオエフェクト機能)を内蔵し、ピクチャーインピクチャー(PinP)や2Dトランジションに対応。クロマキーやオーディオミキサー機能も内蔵し、カット、ミックス、ディップ、グラフィックワイプといった、17種類のDVEトランジションにも対応している。

これらのサイズやクロップの縦横比率も操作は本体から簡単に調整出来るようになっている。

メディアプールにストックした静止画保存が可能

メディアプールには、PNG、TGA、BMP、GIF、JPEG、TIFFなどの静止画ファイルを20個まで保存することが可能。
これらは内蔵のフラッシュメモリに記憶されるため、一度電源をオフにし、再度立ち上げた場合にもメディアプールにすぐ復元される。
この機能があることで、あらかじめ配信に使用する素材をストックさせておくことができるので、配信番組の仕込み作業の時短につながりそうだ。

電源ケーブルの変更

ちなみに今回電源が3極電源(三穴タイプのもの)に変更されている。
この点については、従来のATEMはACアダプタの電源コネクタ部が小さいもので、コネクタが抜けるという不慮の事故のリスクが怖かったといい、今回の変更で多少安心できるのではないか、という。
また本体の消費電力が40Wと意外と少ないため、ケーブルはスリムタイプの細いものでも大丈夫だと思うが、ケーブル類がまとまった際の発熱リスクを考え、レビュー試用時は接地端子付きの太めのものをチョイスした。

ソフトウェアとの連動

もちろん、従来どおり、ソフトウェアコントロールもでき、複数人で役割分担するオペレートも可能だ。

今回同時にリリースされたHyperDeck Studio Miniとの連動もしており、こちらのRecも本体操作なしでソフトウェアで簡単に操作することが出来る。

まとめ

やはり、ニコニコ生放送などでよくある、ゲーム実況系の番組配信時に力を発揮しそうだ、という意見は多かった。
また、コンパクトさを活かしてライブや舞台などの舞台袖など狭い場所(配信機材スペースを広く取れない会場)での配信にも重宝しそうだという。

例えば、配信する現場でのスペースを減らしたい、機材を少なくしたいときはATEMだけ、クロマキー合成や録画を同時に行なう場合にはATEMとPC、HyperDeck Studio Miniを連動させるなど、現場に合わせて使用することが出来る。

ソフトウェアとの連動は従来のATEMと変わらないが、本機のみで操作が可能になったことで、万が一、ソフトウェアからのコントロールに不具合があった場合や、配信場所の都合や持ち運びを考えて使い分けができるようになったので、そこは確実に利点といえるだろう。

これだけの機能で、価格は税抜きで¥113,800と、旧ATEM Television Studioからお値段据え置きに。同価格帯のRoland V-1HD(税抜き希望小売価格:¥128,000)と比較しても、なかなかなものだ。

関連情報リンク

ATEM Television Studio HD製品ページ
HyperDeck Studio Mini製品ページ

レビュー協力

株式会社エスピーボーン
http://www.sp-born.jp/

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