VRクリエイターアカデミーを開講したLIFE STYLE社 VRアカデミーと同社のVR業界での狙いとは

先日、実写360度VRコンテンツ制作を学べる、『VRクリエイターアカデミー』(以下、アカデミー)の開講を発表したLIFE STYLE株式会社。
今回は同社取締役の冨山亮太氏にお話を伺う機会があったので、運営するアカデミーについて、そしてVRビジネスにおける同社の狙いを伺った。

LIFE STYLE株式会社取締役 冨山亮太氏

VRクリエイターアカデミーを運営する LIFE STYLE株式会社

まずはこのアカデミーに関して、以前もご紹介したが再度概要を説明したい。

アカデミーカリキュラム
アカデミーは4日間のプロセスで、撮影、動画のスティッチ(360度に繋げること)、編集しプラットフォームに上げる、こうした制作の一連の流れの中でのデータ管理の仕方、コツ、ケーススタディなどを含めて合計3日間の講座を行う。

こうした一連のカリキュラムは、GoProVRソフト開発拠点で行われるKolor Academy(360 度動画制作研修プログラム)のカリキュラムに則って行われ、最終の1日で、参加者による卒業制作としてのプレゼン、そして合否判定が行われ、合格するとKolor GoPro認定資格レベル2という資格がもらえるというもの。

以前の「VRクリエイターアカデミー」に関する記事

Googleストリートビューの制作・公開を行なうLIFE STYLE株式会社、実写360度VRクリエイターアカデミーを開講

2017年4月13日 | eizine

VRコンテンツ制作を行なうLIFE STYLE株式会社は、2017年4月13日、実写VRコンテンツ制作技術が身につく「VRクリエイターアカデミー」の開講を発表した。


では、このアカデミー開講までの同社の経緯はどういったものだったのか。

Googleストリートビュー事業からVR事業へ

2014年の創業からGoogle認定代理店としてストリートビューの屋内版の撮影を行っていたLIFE STYLE社。同年12月、その成績を認められ、Googleより「最高成長率賞」を受賞。学校の撮影だけでも全国で400校以上、ストリートビューの取次件数も日本トップクラスになってきているという。
その後、制作を引き受けられる量を超える撮影ニーズの高まりもあり、Googleストリートビューのビジネスモデルを教育する、パートナー展開(代理店展開)をおこなう。

ストリートビュー事業は順調に推移していたが、事業をストリートビューではなくVRへ向ける契機となった出来事があったと冨山氏は述べる。

『ストリートビューは当然ストリートビューとして撮影するので、Googleに掲載されるわけです。この、掲載されるということがメリットだとお客様に営業していた我々に対して、ストリービューに載せたくないというお客様の声があり驚いたんですね。
そこで、なんでですか?とお聞きしたところ、「ストリートビューとして公開してしまうとネットの不特定多数の方に見られてしまう。そうではなく、360°の写真として僕らだけが観るものとして撮影してほしい」と言われたんです』(冨山氏)

こうしたクローズドの360度コンテンツ制作依頼のほかにも、ストリートビューで長い距離を撮影するのではなく、指定した場所を1箇所ずつ360度VRで見せたいという要望もあった。
ニーズはありつつも、Googleのストリートビューのポリシー上、不動産物件など、撮影・制作に対応できないという問題もあったという。

『これらのニーズは、360度撮影されたコンテンツに対するニーズであって、あの時提供していたストリートビューに対するニーズではなかったんです』(冨山氏)

ストリートビュー専業からVRへ
そこで2016年に、いままでのストリートビュー事業を通して育成してきた全国に630名以上いるカメラマンと協力し、顧客からの実写VR撮影へのニーズに対応できるよう事業を再構築した。

そして2017年よりローンチした、アカデミー、クリエイターと企業の制作ニーズをマッチングするプラットフォームである『Flic360』、ブラウザ上でVRコンテンツを制作できるツール『Flic360 Make』の3つの柱をもって『VRクリエイターエコシステム』(後述)を打ち出し、ストリートビュー事業の頃に培ったビジネスノウハウを武器にVRビジネスへ根を張る。

では、この『VRクリエイターエコシステム』のベースとなるアカデミー事業を通し、VR業界でのLIFE STYLE社のねらいを掘り下げたい。

VRクリエイターアカデミー

アカデミーの特色

ー 制作実務に耐えうるカリキュラム
先述の通り、同社のアカデミーではKolorの認定資格レベル2が授与される。
レベル2は「VRコンテンツを作れる」という認定レベルとなる。その上のレベル3(「VRを教えることが出来る」レベル)を持っているのは世界に14人しかおらず、そのうちの2人がLIFE STYLE社の社員でアカデミーの講師を務める。また、日本で初めてのKolor認定トレーナー(レベル3)染瀬直人氏もアカデミー講師としてサポートしている。

染瀬直人 氏(画像:プレスリリースより引用)

こうした経験と実績を重ねた講師陣が実写VRコンテンツ制作を教えてくれるということもあり、アカデミーには個人のクリエイターや映像制作会社の社員だけでなく、興味深いことにVRを使って何かをしたいと考える一般企業の新規事業担当者などから、作業内容や制作工数を学ぶために受講申し込みがあるという。

当初、同社にとっては予想外でもあった受講者について、「VRコンテンツを検討する上で、確かな情報を持って意思決定を早めたいということではないか」と冨山氏も推測する。

ただし、受講者は一般的なAdobeのPremiereやAfter Effectsなどの映像編集ソフトなどを使用経験者に限られ、提供するKolor認定資格カリキュラムの都合上、全くの素人で本アカデミーに参加することは現状断っているという。
逆に言えば、すでに映像制作を行ったことがあり、映像編集ソフトの使用経験、映像作品のポートフォリオが提出できる方であれば問題ない。

「アカデミーに関して、まずはプロ向けにプロが学ぶことを通して、自身のスキルを上げて仕事の受注を受けていける場にしていきたいと考えています」(冨山氏)

― 卒業した受講者へのビジネス面でのサポート

VRの作り方を学んだ卒業生がビジネスとしてVR制作ができるようなシステムも整備している。
それが先述の、VRを学ぶ場(VRクリエイターアカデミー)・VR制作ツール(Flic360 Make)・VRに特化したマッチングサービス(Flic360)を展開する『VRクリエイターエコシステム』。
アカデミーを卒業した方や、発注主となる企業の担当者などにシステムの一環であるプラットフォームに登録してもらう予定だ。

というのも、VRが作れるという状態になっていても、直接個人へビジネスの発注があるとは言えない現状がある。
そこでアカデミーを受講し認定資格を授与した方々にプラットフォームへ登録してもらい、優先的にビジネスの機会が与えられるように運営していくという。

『ビジネスとして技術を教えることであれば別にオンラインで十分なんですが、そうでなくVRの会社がこんなことを言うのもどうかと思いますが、フェイス・トゥ・フェイスで会ってそれでコミュニティを生み出していくということが、価値になる。こちらのアカデミーを受講した方なら安心して企業に紹介できるんです』(冨山氏)

ー アカデミーの今後

すでにスティッチを必要としない360度撮影機材が販売されるなど、教える内容よりも市場に出る技術の進歩の方が早い場合もある。アカデミーではこうした機材の変化にもカリキュラムを対応させ、教える技術自体も変えていく可能性は当然あるという。
技術の進化がどれだけ早いか、どれだけついていけるかが、同社にとっての勝負になると冨山氏は述べる。
『最新のIT分野やテクノロジーというものはどんどん進化していくと思うのですが、アカデミーは常に最新の技術が学べる場にしておきたい。VRのコンテンツであればここに最新技術が学びに行けるという場所を作りたかったので、いわゆるVRライブ配信技術であったり、Unityの技術であったりも、アカデミーで教える内容としてチャレンジしていきたいと考えています』(冨山氏)

今後もアカデミーに外部講師を招いて新たな講座を開く計画をしているとのことで、このアカデミーを中心に日本のVRクリエイターの技術や平均値がグッと高まることが期待される。

また、受講者にとっての今後を考えた時、ビジネス面のサポートの項目と前後するが、受講者にとって技術を学ぶ場であると同時に、受講したことで今後どう自分のビジネスとして繋がっていくかということも重要である。
そうした受講者の意識もLIFE STYLE社におけるアカデミー事業の強みになっている。

『既に大手企業からバルクで何百件撮影して欲しいとか、ある地域でこういった撮影があるが対応できるカメラマンがいるかどうかとか、海外から日本国内のこういう場所を撮ってきて欲しいとか、その逆があったり。そういった発注を、企業側は自分たちでいちいち探したくないでしょう。その時に我々が一番最初の窓口になれればいいと思っていますし、すでに窓口になっている部分もあります。そこに弊社アカデミーで育成した、発注企業側も安心して発注できるクリエイターさんが登録されていることが強みであり、卒業生へのビジネス面でのサポートにもなると考えています』(冨山氏)

このようにアカデミーを中心に、クリエイターへビジネスの機会を与えていくことで、VR市場の拡大を目指すというLIFE STYLE社の狙いも見える。

以前のストリートビュー事業では、同社が営業でビジネスが出来る機会を確保し、提供して、製作者も育成ということを行っていた。Googleのストリートビューを作るツールは既にあったため、仕組みを作るだけですべて出来上がっていたとのこと。
今回のVR事業においても、同社の営業力をベースに、新たにVR制作ツールを作り、アカデミーとプラットフォーム、その3つをもって市場を作ろうとしているのが、いまVR業界でやろうとしていることだと明かした。

VR業界でのLIFE STYLE社の今後の展望

アカデミー、制作ツール、プラットフォームの3つを事業の柱とするLIFE STYLE社。
そのなかでも柱の1つであるアカデミーの目的は、「コミュニティの創造」だという。

そして最後に、今後まず行なうこととして、VRクリエイターマッチングプラットフォーム「Flic360」の活性化を挙げた。
コミュニティが下地にあれば、Flic360を通じて新たなビジネス等が生まれ、業界やコンテンツが活性化していくことが出来ると考えているのだという。
『学校という場所の価値を考えると「学ぶこと」というのは最低限だと思うんです。それ以上の価値を見出すとしたら何かと考えると「コミュニティ」で、卒業したらそこで関係性が崩れてしまうような、卒業して終わりというのは寂しい。ですので、コミュニティを創造していこうというのがアカデミーでの一番最初のテーマであります。こうしたコミュニティの中で新たなビジネスの循環を作り出したい』(冨山氏)

関連情報リンク

LIFE STYLE株式会社
VRクリエイターアカデミー
Flic360
Flic360 Make

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