【インタビュー】LIFE STYLE株式会社 代表取締役 永田雅裕氏に聞く『VR元年から1年 これからVRを始める人たちへ』

先日お伝えした、MUTEK.JP VR Salonの取材の際に、今回のVR Salonを企画したLIFE STYLE株式会社(以下、LIFE STYLE社)の代表取締役 永田雅裕氏に取材させていただく機会があった。永田氏には、MUTEK.JP VR Salon企画のキッカケから、VR元年と呼ばれた2016年から1年が経った現在のVR業界で感じるていること、VR関連イベントを多く行なうLIFE STYLE社の狙いがどこにあるかなどを伺った。そして今後の日本のVR業界、そして新たにVR制作を始める方々へ向けてお話していただいたので、今回はそのインタビューの模様をお伝えしたい。

一般の方々の意識も少しだけ変わっている

ー まず、今回のMUTEK.JP VR Salonを企画したキッカケを教えてください

永田氏:「そもそもは、弊社の社員がMUTEKの企画メンバーと知り合いだったことからスタートしました。MUTEKは新しいテクノロジーとアートの融合の場ということなので、VRで著名な各社にお声掛けして講演会形式でディスカッション出来る場を設けて技術とアートを繋げていくと面白いのではと提案しました。今回のメンバーは、VRという中にもCGや実写など色んな概念がある中で、その辺を打ち破って話ができるようなユニークなメンバーです。一括りにすると同じ”VR”といっても、同じようなことをしてないようなメンバーを集めて話す場を設けてみました。そんなVR業界の中でこういった企画をおこなうことにも意味があるかなと」

MUTEK.JP VR Salonでのパネルディスカッション

                                                    
ー 2016年はVR元年といわれた年でした。1年経って変わってきているなという実感はありますか?

永田氏:「一般の方々の意識も少しだけ変わっているなという実感ですね。VRという言葉を知っている人は増えたなと思います。例えば、『HMD(ヘッドマウントディスプレイ)でVRといわれるコンテンツを体験したことがありますか?』という質問をすると、体験したことがあると手を上げる方は3割くらいから5割は行かないくらいですね。VR業界にいるので周りの人はみんな手をあげますけど、そうじゃない一般の方では、体験出来たという人がようやく3割くらいになってきたなと。ちょっとずつ体験したことがあるという方が増えてきたなという実感です。その増えてきた要因の1つとして、日本においてはゲームセンターがリプレイスして、VRが体験できるアミューズメントパークのような施設になったこと。例えば新宿のVR ZONEなどができて、VRを体験できるスポットが増えてきたことが挙げられます。そのことで多くの人が1度でも体験できるようになったかなと思いますが、普及という意味ではまだまだというところですね」

ー LIFE STYLE社としては問い合わせは増えてきているのでしょうか?

永田氏:「問い合わせ件数は増えてきています。ただ、まだ『何かVRでやってみたい』という問い合わせが多いかなという印象です」

パネルディスカッションでの永田氏

iPhoneが出てきた頃と一緒

ー VRが一般に普及しきっているとはいえないとのことですが、低価格の機材が発売されるなど事業の参入ハードルも下がりつつあります。今後VR業界はどのようになっていくとお考えでしょうか

永田氏:「360度カメラが発売されて1、2年が経ち、いまは4K以上で動画が撮れるような状況になってきています。安いものだと、リコーのTHETAなどが3万円ほどで購入できたり、insta360を発売している中国のShenzhen Arashi Vision Co., Ltdという会社が出している業務用機材では50万円を切るような製品が発売されたりしています。そのため比較的みなさん参入しやすくなっている背景があると思います。その上、従来必要としていた制作技術のような点もハードの進化によって必要がなくなってきているので、やはり企画が大事で、企画勝負みたいなところになってきています。そうすると、我々にはイベント中継などで培った制作ノウハウというものも求められてくるとは思うんですが、参入しやすくなっていますし、簡単なコンテンツは凄く安価になってくると考えられます。そう考えると、例えばイベントで使うようなコンテンツであれば、どこで誰に見せたいか、見せたことによってどんな効果がほしいかというところまでトータルでプロデュースできる企業はどんどん付加価値をつけて生き残っていく状況になるでしょうし、その他は淘汰されていきそうな予感はします。ただ、まだまだ始まったばかりの分野なので、この市場に参入してビジネスを始めていくのはまだまだチャンスがあるのかなと思います」

ー LIFE STYLE社は「VRクリエイターアカデミー」事業の他にも積極的にVRイベントを開催していますが、意識してこうした”場作り”をおこなっているのでしょうか

永田氏:「そうですね。2007年にiPhoneが発売されましたが、VR業界でも現在HMDや360度カメラなどのハードがたくさん出てきていて、今のこの状況を例える時によく『iPhoneが出てきた頃と一緒だね』という話をします。iPhone・スマートフォンは結局アプリケーションが重要で、日本の場合であればLINEが急速に普及した結果、若い方だけでなく歳を重ねた方も、LINEでコミュニケーションをとりたいということでiPhone・スマートフォンの購入が進んでいます。良いデバイスが出てきたところで、結局のところ中で使うコンテンツが充実してなかったりすると普及は進まないわけです。VR業界も、ハードが増えても、やはりコンテンツが不足しているという現状があるので、そこを打破するためにはクリエイターであったりビジネスに入ってくる人を多く取り込んで行かなければならない。そのためには露出しなければならないし、草の根運動ではないですが、より多くの人に知ってもらう接点を多く作っていくというのは意識して行なっています」

ー なるほど。接点を多く作っていく上で、VRのコミュニティの広がりも感じますか?

永田氏:「VRのコミュニティというのは、まだまだできていないと思います。一部でVRを盛り上げようとしている感じで、VR業界から1歩外に出て違う業界の人に話を聞くと、全く知られていないなと感じます。ですので、プレイヤーをもっともっと増やしていきたいと思っています。そういった意味ではコミュニティ化は狙っていますし、凄く大事なことだと考えています。そこで情報交換であったり切磋琢磨することで競い合っていくことは凄く重要で、そういう環境を作っていくことで日本からもより優れたコンテンツが出て来るはずですし、我々もその中で切磋琢磨していきたいと思っています。そうすることで我々に入ってくる情報もより良いものになってくると思いますし、やはりそのコミュニティの中にいたいですね」
                                                    

若い人たちの発想でないと世の中を変えるような新しいコンテンツは作り出されない

ー 最後にこれからVR制作をはじめてみようという方、特に若い世代に対してメッセージをください

永田氏:「VRは、若い方の方が可能性がある業界だと思います。VR Salonのパネルディスカッションでも話が出たのですが、今まで映像制作していた方々は、今までのやり方で頭が凝り固まってるケースが多く、自由な発想であったり、これだけテクノロジーが進化しているのにテクノロジーを使い切らないことがたくさんある。けれども、今は遊びついでに試して作ってみる、ということができるし、どんどんやるべきで非常に大事だと思うんです。遊んでいるうちにそれがビジネスになりうる業界なので、どんどん誰よりも好きで夢中になってやることが大事。そうして作っていく中で、もっとクオリティを高めようとしっかりとした機材を購入しビジネスとしてやってみてもお金はついてくる状況ではあります。まずはTHETAみたいなカメラから始めてもいいですし、とにかく作ってみるやってみる撮ってみるという風に自由な発想で始めてもらいたいです」

永田氏:「いまはInstagramなどで簡単に自分から世界に発信できて、良いものはどんどん勝手にシェアされる時代なので、予算をかけるかかけないかではなく、発想ひとつでおもしろいなと思えるものを作って発信してみたら良いと思うんです。特に女子高生とかでいえば、インカメラを使って、例えばsnowみたいなアプリで自撮りしたりだとか、アウトカメラでInstagram用の写真を撮るように、インカメラとアウトカメラの使い分けが凄く上手です。空間を360度の空間として捉えて、自分がどう見られるか相手にどう見せるか、自分が見ている世界をどう切り取るかが自然と身についていたりするので、実写360度に関しては凄く相性が良いんじゃないかと思っています。僕は高校生だとか若い方の時代だと思っていますし、若い人たちの発想でないと世の中を変えるような新しいコンテンツは作り出されないし、今の映像コンテンツの常識を塗り変えられないと思うんです。ですので、若い世代にはすごく期待しています」

                                                   

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