VR制作の未来と日本のVRのいまを知る ー 2017.11.4 MUTEK.JP VR Salon スペシャルレポート

かんたんに言うと
  • 11/4に開催されたMUTEK.JP VR Salonのイベントレポート
  • 日本のVR業界を代表する方々によるパネルディスカッションでは、現在のトレンドや今後期待する技術などについて語られた
  • VRとセンシングによってもたらされる人体解明の可能性など、今後のVR技術に期待する声が聞かれた

2017年11月3日(金/祝)、4日(土)、5日(日)、東京・日本科学未来館(Miraikan)にて開催された「MUTEK.JP 2017」。
2日目となる土曜日は、日本のVRの業界において注目を集めるLIFE STYLE株式会社の企画により、VRの世界を体験できるエリア『MUTEK.JP VR Salon(以下、VR Salon)』が開催された。ここではVRにまつわる3つのブースが設置され、それぞれ、”VR Exhibition”でVRコンテンツの体験、”VR Workshop”で360度実写VR制作体験、また”Panel Discussion”で日本のVR業界を代表するゲストメンバーによるVR制作の未来と日本におけるVR業界の今を伝える、“Future of VR Creation”と“VR in Japan”というテーマでのパネルディスカッションの聴講ができた。今回は、MUTEK.JP VR Salonの各ブースの模様をお伝えしたい。

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VR Workshop

会場に着いてまず向かったVR Workshopでは、360度VR映像制作の基本的な制作ポイントを学べるワークショップが開催されていた。約20名ほどの参加者が360度撮影用のカメラを取り囲むようにして行われた講義では、LIFE STYLE社より北村琢氏と、小原宏文氏が講師となり参加者に360度撮影について説明をおこなう。

この講師の1人、北村氏はKolor GoPro認定トレーナーという資格を持っている。このKolor GoPro認定トレーナーは資格保持者(同資格認定レベル3という段階において)が世界に14人しかいないというもの。そんな360度撮影のプロフェッショナルから学べる機会とあって、参加者の表情も真剣であった。

このワークショップでは、実際に360度撮影を体験しスティッチングし編集、YouTubeへアップロードという手順を説明していくというものだが、比較的基本的と思われた内容の中に、最新のVR制作ソフトの機能面での違いなど、よりVR制作を具体的に知りたいという方にも飽きさせない話題を織り交ぜたワークショップとなっていた。
それもそのはず、LIFE STYLE社は360度撮影クリエイターを育成する『VRクリエイターアカデミー』を開講するなど、日本のVR業界においてクリエイター育成面でも目立った存在。今回はそのノウハウを活かし、360度コンテンツ制作にはまずどういった機材やソフトウェアが必要かなど一般の方にも分かりやすい内容で説明していた。
                                                  

Future of VR Creation

続いて、パネルディスカッションプログラムのひとつ、“Future of VR Creation”に足を運んだ。
このパネルディスカッションには、写真家としても活動し3Dスキャニングの事業も手がける株式会社AVATTA CEOの桐島ローランド氏、VR制作/配信クラウドサービス「STYLY」の株式会社Psychic VR Lab COOの渡邊信彦氏、VRプロダクト分析サービスの「AccessiVR(アクセシブル)」やゲーム開発で知られる、株式会社ダズル 代表取締役の山田泰央氏、建築・土木業界向けVR制作ソフトウエア「SYMMETRY」を開発するDVERSE.inc CEO 沼倉正吾氏、そして今回のMUTEK.JP VR Salonを手がけた、LIFE STYLE株式会社 代表取締役 永田雅裕氏が登壇。
5名は活躍しているそれぞれのフィールドから、現在と今後のVR制作についての議題に対し意見を交わしていった。

AVATTA 桐島氏は『現在注目しているVR技術は?』という議題に対して、3Dスキャンの技術に注目していると述べた上で、欧米に比べて日本は町並みなどの3Dデータが圧倒的に足りないと指摘する。「まだスキャン技術というのは荒削りで時間とお金が非常にかかる。手に取りやすい価格で一般の方でも簡単に使える製品が出てくると、実際に3Dデータと触れ合ってみることで面白みを分かってもらえるだろうし、3Dデータの供給も進んでいくだろう」とVRに必要な3Dスキャニング技術の普及について強く語った。

また、DVERSEの沼倉氏は、現実世界の立体映像化が進んでいないと話し、「撮影すると映像だけでなく深度もデータとして取得されるビデオカメラがあると、撮影した映像の中を自由に動き回れるようにもなる。今までの映像が単にRGBの世界だとしたらそこに”D(Depth/深度)”を加えた”RGBD”というデータを取得してデジタル化していく技術に注目している」と述べ、実写VRの世界でも自由に動き回れるVR空間を作ることが出来ると、VR撮影技術の可能性を語る。

LIFE STYLEの永田氏は一般向けの様々なVRイベントを開催している経験から、一般の方がVRやMR、ARをどう活用するかに注目していると話す。「いままで高価なものだったHMDも、年末から来年にかけてようやく2~3万円で発売される。手に取りやすいものが増えると一般の方に普及し、活用される機会が増える。そのことで、もっとリッチな体験ができる魅力あコンテンツが増えていくはず。いま、そのタイミングがいつかというところに注視している」と、コンテンツ制作からVRクリエイターの育成、イベントでのオーガナイザーなど様々な事業を行なう立場から、俯瞰的にVR技術の広まりを見ることの重要さを伝えていた。

『VR・AR技術はクリエイティブな創造行為に今後どのような影響を及ぼすだろうか』という議題に対しては、Psychic VR Lab渡邊氏は自身が2006年にバーチャルワールド『Second Life』を広告会社の一員として日本に持ってきた当時と比較し、「クリエイティブをしている人達が一般化している」と話す。「当時はSecond Life内に3Dコンテンツを作ろうと思うとMAYAが使えたり3D技術を持つ専門家でないと高度なものは作れなかったが、今は違う。YouTubeが普及し一般の方が映像を気軽に作っているのと同様に、今後はクリエイティブな行為や表現が平面から立体になってくると考えている。音楽がそうであるように、映像表現も立体化し、表現自体が立体で考えないといけない時代がくるのでは」と、立体表現が一般化したその先のクリエイティブを考えることの重要さを説く。

ダズルの山田氏は「クリエイティブな創造行為ということで考えると、実際に人と人とが会わなくてもオフィスワークができたり、人と人とが国境を超えてVR空間を共有することでクリエイティブな創造行為ができるということには影響を及ぼしていると思う。そもそも今日のイベントみたいに集まらなくていいよね、という風にごく近い将来実現されるのでは」と、クリエイターが創造的な行為以外に時間が割かれてしまう現状を、VRがよりクリエイティブに集中できる環境を提供し変えることができると強調した。

VR in Japan

最後のパネルディスカッション『VR in Japan』には、株式会社AOI Pro. Creative Directorの吉澤貴幸氏、面白法人カヤック VR部の泉聡一氏、太陽企画株式会社 Chief Producer 大石暉氏、ネストビジュアル株式会社 代表取締役 植山耕成氏の4名が登壇。CMをはじめVRを含む映像コンテンツを制作する立場から、VR in Japanというテーマの下、日本のVRの今について現状をどう見るかなどを語った。

その中で、「現在、国内のVRのトレンドはどのようなものがあるだろうか?」という質問に関して、太陽企画の大石氏はPSVRなどのハードの普及にも言及し「一般には、VRを体験できるハードを”所有する”というより、新宿のVR ZONEなど、アトラクションとしてVRを”体験をしにいく”という方向にトレンドがあるだろう」と語る。また、「スマホのカメラにも、スクエア撮影モードなどと並んで360度撮影モードというのができるんだろうなというのは想像できる。いままでインカメラが自分を撮るものだったのが、これからは自分を含めた空間を撮影していくトレンドができるのでは」と現在のトレンドと、近い将来のトレンド予測を語った。

ネストビジュアル 植山氏は、日本でVRがトレンドになっているか今ひとつ実感がないとした上で、VRコンテンツに2つのトレンドの方向性があると言う。「1つは、IPを使用した色んな人が楽しめるアーケードのVRコンテンツ。2つ目は、アイドル物、アダルト物など、どちらかと言うとニッチなコンテンツというこの2つの方向性だろう」と話す。

これに対しカヤックの泉氏も、植山氏に「ほぼ同意」と続き、「今後はニッチの方で、2つトレンド来るだろうと語る。「コンテンツを作る側としては、狭く深いところに刺さるアイドルやアダルト物は成功する。もう一つ、ビジネスシーンで使われ始めているVRコンテンツ。特に労災防止や不動産のVRコンテンツの1000万円以下でスモールスタートできるちょうどいいサイズ感のコンテンツが広まっていくだろう」と話した。

また、「潜在的に元々あった欲求をVRをツールとして使って実現しようという方向性になってきた。トレンドというかポテンシャルなのかなと思う部分で…」と語った、AOI Pro吉澤氏の話は興味深いものだった。
AOI Proは、VR空間で映像を視聴する人の生体反応(視線、脳波、心電心拍など)をリアルタイムで取得、さらに視聴前後のアンケートデータと組み合わせることでリサーチを強化するという映像評価システムVR ON AIR TESTを発表しており、それと絡め、「VRは人間をある没入した状態にするので、脳波を測ってもノイズが乗りにくい。人間の生体反応を計測するとものすごく細かく計測できる。このシステムに対してはVR空間を既に作っているコンテンツ制作者からの問い合わせが多い」といい、「VRを体験した人に、このVR空間はこのデザインでよかったか?という従来はアンケートで調査していた部分が、生体反応ですべて如実に語ってくれるとしたら正確に知れる、そんな未来がくるはず」と語る。また、「VRじゃなくても解明したかった、例えば、発達障害の子の本当の才能がどこに隠れているかなど、いままでカウンセリングや従来の教育でたどり着こうとしていたところに、もしかしたらVRとセンシングでたどり着けるのではないか、という問い合わせも増えている」と、VRとセンシングという技術の組み合わせが持つポテンシャルについて話が及ぶと、会場からも「なるほど」と感心の声が漏れた。
トーク終了後も最新のVR製品やサービスなど情報交換をする姿が会場内のあちこちで見られ、いまだ日本においてはVRはこれからという声もあった。VRが普及するにつれ更に技術や表現も変わっていくだろう。今後のVR業界の動向について今後も追いたいと思う。(11/13 13:30追記)

   
                                             

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